最近私の外来に増えてきた相談に“入れ墨除去”というものがありますので、これについて書いてみようかと思います。
こんな相談をする患者さんはヤクザなのかなと思ってしまう人もいるかと思いますが、案外普通の方が患者さんなのです。
おそらく、背景には、入れ墨はファッションの一部と考えるようになって来た若い人のおしゃれに対する感覚の変化があるのでしょう。実際、お会いする患者さんの入れ墨も上腕にいれた恋人の名前とか、唐草模様などがほとんどです。
治療には、現代医学では大きく分けて1、レーザー照射 2、切除 3、植皮 の3種類になるのでは無いかと思います。今回は特にこのレーザー治療に対して書きたいと思います。
美容外科の広告を見ていますと、レザー万能な感じを受けますが、“黒いものしか消えない”という欠点があるという事を皆さんに知っていただきたいのです。何故かという事を説明する前にレーザーというものについて若干の説明を加えようかと思います。まずレーザーとは何か?と聞かれてきちんと説明出来る医者の少なさに驚いてしまうのですが、それを分からず照射している医者の多さにもまた驚いてしまいます。それはさておいて、レーザーとは、分子あるいは原子がエネルギー状態を変化させる時に生じる光の波です。これはちょっと物理の世界なので詳しい事はここで書くのは止めにして、どの分子や原子から発生するかにとってレーザーに名前がついています。たとえばアルゴンを使えばアルゴンレーザー、ルビーを使えばルビーレーザーといった具合いです。次に、この元になるものによって、出てくるレーザーの波長が違います。ですから一口にレーザーといっても“性格が各々異なっている”という理解をしていただきたいのです。ここまで理解していただいた上で、生体としての人間とレーザーとの関係を書きたいと思います。一言で言うと、“波長が長い程、深い組織に届く”という事です。
話を元に戻しますが、入れ墨の場合、真皮(これは結構深い)に彫られているので、長い波長のものが必要になります。現在出回っている機種の全てを私は知らないので、どのレーザーがどれだけ良くてこれはダメとかいったコメントは避けて、理屈から言うと真皮に届いて、なおかつ赤や黄という色にも反応させるものを作るのが難しいと言わざるを得ません。これは色にはそれぞれ反応する適切な波長というのが存在して、“色に合わせたレーザーの波長だと入れ墨の深さまで届かない”という事態が生じて来ます。ですから、波長と色の関係から言うと“黒い(あるいは紺)ものしか反応しない”という事態になってしまうのです。
ここで、実際にお会いした患者さんの紹介をしておきたいと思います。この患者さんは他院にてレーザー照射を受けたのだけれど、黒い部分だけが消えて赤、黄、水色の部分が消えない上に一部は火傷の痕になってしまったという訴えでした。レーザー照射を始めてから数回して、赤や黄色が消えないと患者さんが訴えたので、照射パワーを強くしたらしいことが分かりました。これは、レーザー自体が熱エネルギーなので、パワーを上げれば火傷をする確率も上がるという基本原理が理解されていない結果に起こった可能性が高いと思います。結局、この患者さんは私のところで切除して治療しましたが、時として照射後に切除しきれない事が分かって、植皮せざるを得ない方にお会いすると、やりきれない気持ちになります。医療というのは、医者の腕や知識も大事ですが、患者さんも色々な事を理解した上で、治療を受けて欲しいと思います。よく広告で“最新機器”をうたっているクリニックを見かけますが、目的地に安全に着くには、最新の車である必要は無く、ドライバーのテクニックがしっかりとしていなければいけない事と似ている気がしてなりません。
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